第3章

絵里視点

法廷の蛍光灯が目に痛い。朝の七時にはここに到着し、安物のスーツに身を包んで、被告人席に座っていた。

傍聴席は満員だった。『和也に正義を』なんてプラカードを掲げる彼のファンと、無数の芸能記者で埋め尽くされている。ここは法廷というより、まるでコンサート会場だ。

九時になって、ようやく和也が姿を現した。二時間もの遅刻で、紺色のスーツにサングラスをかけ、弁護団を引き連れている。腕には高価なドレスを着た梨乃が、甘い笑みを浮かべてしがみついていた。

「遅れまして申し訳ありません」大輔が立ち上がった。「クライアントの身辺警護を強化する必要がございまして。サングラスの着用許可をいただけますでしょうか」

傍聴席から興奮した囁き声が聞こえる。「和也、超カッコいい!」「あのイカれた元嫁、マジで怖すぎ」

うちの弁護士の玲子、まだ卒業したばかりの新人は、震える手で神経質に書類をめくっていた。

『もう、おしまいだ』

「裁判長」大輔がそのパフォーマンスを開始した。「私の依頼人は、被告人から長期にわたる精神的虐待と脅迫に苦しめられてきました。それでは、証拠を提出させていただきます」

大型スクリーンが点灯し、豪邸の監視カメラの映像が映し出された。そこには、完全に我を失った私がいた。和也のトロフィーや私たちの写真、高価な花瓶を叩き割り、すべてを粉々にしていく姿が。

スクリーンに映る自分を見て、心臓が激しく脈打つ。くそっ! あれは和也の浮気を知った直後のことだ――完全に、頭に血が上っていた。

「これは被告人の暴力的な傾向を示すものです」大輔はスクリーンを指さした。「彼女は器物を損壊しただけでなく、無関係の第三者にも暴行を加えています」

映像が切り替わり、私が梨乃を平手打ちする場面が、何度も何度も再生された。

傍聴席がどよめいた。「うそでしょ!」「マジで殴ってる!」「サイコじゃん!」

唇を強く噛みしめ、爪が手のひらに食い込む。『崩れちゃだめ。こいつらの前で、絶対に弱みを見せるな』

「これらの行動は、夫の不貞を知った依頼人の、正常な感情的反応であり……」玲子先生がどもりながら言う。

「正常、ですか?」大輔は嘲笑った。「罪のない女性を殴ることが、正常な反応だと?」

和也がゆっくりと立ち上がり、サングラスを外して「傷ついた」瞳を露わにした。

「私は心から恐怖を感じています。彼女は完全に常軌を逸していました。梨乃と私に何をするか、恐ろしくてたまりません」

『見事な被害者演技だ』

傍聴席のファンたちが叫ぶ。「かわいそうな和也!」「すごく傷ついてるみたい!」「あのキチガイ女、監獄にぶち込んじまえ!」

涙が目に込み上げてきたが、絶対に泣くわけにはいかない。この人たちの前では。

椅子の肘掛けを強く握りしめると、胸にあのお馴染みの引き裂かれるような痛みが走った。くそ、また癌が痛みだした。

――

休廷中、私はトイレに隠れ、便座に座って丸くなりながら、震える手でスマートフォンを確認した。

ソーシャルメディアは、大炎上していた。

『絵里はサイコ元嫁』がトレンド一位になり、関連投稿は十万件を超えていた。

芸能ブロガーたちはライブ配信をしていた。「五条和也の離婚裁判LIVE!元嫁が法廷で暴力性露わに!マジでヤバい!」

視聴者は五十万人を超え、コメントが殺到していた。

「ババアだし、顔も意地悪そう。和也に捨てられて当然!」

「このサイコ、精神病院に入れろよ!」

「和也と梨乃は真実の愛。こいつはただの嫉妬!」

「和也に正義を!有害な人間からは離れるべき!」

誰かが悪意を持って私の顔をホラー映画の怪物のように加工した画像は、百万以上の『いいね』を集めていた。

動画サイトでは、私の「狂った行動」を分析する無数の切り抜き動画がアップされ、それぞれが何十万回も再生されていた。

激しく手が震え、スマートフォンの画面に涙が落ちて、悪意に満ちたコメントを滲ませた。

『私は、世界中の笑いものになったんだ』

さらに悪いことに、残っていたセラピーのクライアントたちから、予約キャンセルの連絡が相次いだ。

「申し訳ありません、ニュースを見ました。自分の安全を危険に晒すことはできません…」

「まずはご自身の心の健康に集中された方がいいのではないでしょうか…」

「私たちの専門家としての関係は、ここで終わりにさせていただくのが最善かと思います…」

十年かけて築き上げてきたプロとしての信頼は――崩壊した。私はもう、ただの狂った女じゃない。無職の狂った女だ。

トイレのドアに寄りかかり、私は声を上げて泣いた。その声は誰もいない化粧室に虚しく響き渡ったが、もはや私に同情してくれる人など、どこにもいなかった。

――

午後の審理は、財産分与についてだった。分厚い財務書類をめくる裁判官を、私は見つめていた。一枚一枚が、私の未来を決めていく。

胸の痛みが増していく。私は歯を食いしばった。

「収入貢献度の分析に基づき……」裁判官の言葉の一つひとつが、私の心に釘を打ち込むようだった。

両手を固く握りしめると、爪が手のひらに食い込んだ。

「五条和也氏を主たる収入源とみなし、彼のソーシャルメディア事業の収益は、彼の固有財産と判断する……」

『違う!あのアカウントを育てたのは私だ!寝る間も惜しんで、フォロワーを一人ひとり増やしてきたのに!』

立ち上がって抗議しようとしたが、玲子先生が私の肩を押さえ、首を横に振った。私たちには証拠も、資力も、希望もなかった。

「財産分与は以下の通りとする。被告・五条和也は、婚姻財産の九割を取得する。これには、全てのソーシャルメディアアカウント、会社の株式、投資、銀行預金を含む……」

九割。

その数字が、雷のように脳天を撃ち抜いた。世界がぐらりと揺れ、津波のような耳鳴りが私を飲み込んでいく。

『十年の犠牲、十年の青春、十年の愛――その結果が、財産の九割を奪われることだなんて』

「原告・五条絵里は、先端区の物件一戸を保有する……」

傍聴席が興奮したざわめきと拍手に包まれる。和也のファンたちは、この圧勝を祝っていた。

「しかし」大輔が偽りの慈悲を装って立ち上がった。「五条絵里さんの現在の困難な状況を鑑み、私の依頼人は、彼の寛大さを示すため、五年間、月々150万円の慰謝料を支払うことを申し出ております」

『私の金で、私に施しを与えるっていうの?』

怒りが胸の中で火山のように爆発した。屈辱は、癌の痛みよりも辛かった。

椅子が床を引っ掻く甲高い音を立て、私は弾かれたように立ち上がった。法廷中が静まり返り、誰もが驚愕の表情で私を見ていた。

「彼の金なんていらない!」私は歯を食いしばりながら言った。「あいつの施しなんか、一銭たりともいらない!」

裁判官が眉をひそめた。「お座りなさい。あなたの経済状況と健康状態を考えると……」

「結構です」私は和也の目を――その顔に驚きと困惑がよぎるのを――まっすぐに見据えた。「あいつの汚い金なんていらない。路頭に迷って餓死した方がましです」

大輔が立ち上がった。「どうか考え直してください。あなたの状況では……」

「黙れ!」私は彼の方を向き、鋭い声で言い放った。「いらないと言ったら、いらないの!」

和也がようやく口を開いた。唇の端を歪め、嘲るような笑みを浮かべて。「だったら、勝手にしろ。だが、後悔するなよ」

「絶対に後悔なんてしない」

――

裁判所の外では、曇り空の下で秋風が唸っていた。だが、それは勝者たちの祝賀ムードを少しも損なうものではなかった。

和也は白い裁判所の階段の上で梨乃を抱き寄せ、群がる記者と無数に焚かれるフラッシュに微笑みかけていた。

「正義は成されました」和也はカメラに向かって雄弁に語った。「今こそ、私たち全員がポジティブさと愛をもって前に進む時です」

記者たちが必死にマイクを突き出す。

「和也さん、元奥様の告発についてどうお考えですか?」

「梨乃さん、ようやく正義が証明された今のお気持ちは?」

「お二人は近々ご結婚の予定は?」

「私は過去を許し、美しい未来を築くことに集中することを選びます」和也は穏やかに言った。「人は時に困難な時期を経験し、誤った選択をしてしまうものです。私に恨みはありません」

「私たちはただ、真実がようやく明らかになったことに感謝しています」梨乃が甘い声で付け加えた。「これからは、ファンの皆さんのためにより良いコンテンツを作ることに集中できます。みんな、愛してる」

下に集まったファンたちが、喉が枯れるほど叫んでいた。「和也!愛してる!」「梨乃ちゃん、完璧!」「最高のカップル!」

誰かが高く掲げた横断幕には、こう書かれていた。『祝・和也解放!』『真実の愛は勝つ!』『キチガイ元嫁、さようなら!』『有害な人間は出ていけ!』

私はドブネズミのように裁判所の脇出口からこっそりと抜け出し、記者たちのカメラとファンたちの祝賀から逃れた。完膚なきまでに打ちのめされた元妻に気づく者は誰もいない。この哀れで落ちぶれた女のことなど、誰も気にかけなかった。

私は透明人間だった。存在していなかった。

あのオンボロの車に座り、バックミラー越しに壮大な祝賀ショーを眺めていた。涙はとっくに枯れ果て、胸の中では空虚な絶望だけが静かに反響していた。

『どうやら私は、この完璧なラブストーリーにおける、悪役だったらしい』

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